ハイブランドのTシャツ1着に、平気で15万円超えの金額を支払う男たちがいる。富裕層が百貨店の外商に勧められるがまま何となく買っているというようなケースも少ないが、そうではなく明確かつ強い意志でその行動に至っているケースも少ない。一体、何が彼らを駆り立てるのか?その輪郭を典型的な3種の価値観別に探っていこう。
スポンサーリンク
ハイブランド服を偏愛する典型的なタイプ1ステータスシンボル型──自分の価値を高めるブランディングツールとして活用する男たち
まず挙げたいのが、ハイブランドの服をステータスシンボルとして捉える層。このタイプの人々にとって、ハイブランドの服は自己表現であると同時に、成功や社会的地位のアピール手段だ。この手の価値基準を持つのは特に、成り上がりのビジネスパーソンや、ホスト、ラッパー、インフルエンサー、ナンパ師に多い傾向がある。彼らは、「ハイブランドの服を着ること=自分は特別な存在である証」という意識が強く、視認性の高いアイテムを積極的に取り入れる。たとえば、現在ではディオールのオブリークパターンニット、過去にはバレンシアガのオーバーサイズロゴフーディーやヴェトモンのレタリングパーカー、グッチのGG柄ジャケットなど、ひと目でそれとわかるデザインを好む。ブランドの歴史やコンセプトなど細かいことにはこだわらず、とにかく「最新で目立つもの」「イマ流行っているブランド」を身につけることを優先する。アクセサリーやスニーカーも同様で、クロムハーツやゴローズのアクセサリー、コラボモノの限定スニーカー、ルブタンのスタッズ付きシューズなど、視認性が高くステータスを示せるアイテムが選ばれる傾向にある。毎シーズン新作を追いかけ、「自分がいかに金をかけているか」が伝わるスタイルに常にアップデートし続けることが求められる。
ハイブランド服を偏愛する典型的なタイプ2デザイナー信奉型──エディ・スリマン、ラフ・シモンズ、ヘルムート・ラングを追う者たち
このタイプは、ハイブランドの服を「デザイナーの思想や哲学を着るもの」と捉えている。彼らにとって重要なのは、ブランド名そのものではなく、そのデザイナーがどのようなスタイルやメッセージを打ち出したかという点だ。ブランドが変わっても特定のデザイナーを追い続け、服を選ぶ際にはその人物のデザイン哲学が体現されたアイテムかどうかを基準にする。代表的な例として、エディ・スリマン信者が挙げられる。エディ・スリマンは、ディオール・オムでウルトラスリムなテーラリングを確立し、サンローランでグランジ・ロックを深化させ、セリーヌでは90年代のインディーロックやスケートカルチャーを取り込んだ。ディオール・オムではモノトーンと細身のジャケット、サンローランではダメージデニムやウエスタンブーツ、セリーヌではバギーデニムやボンバージャケットと、各時代で異なる要素を加えながらも、一貫した美学は貫かれている。彼のファンはブランドではなく、その一貫した世界観を追い続ける。また、ラフ・シモンズの信奉者も同様で、彼の持つユースカルチャーへの洞察とアート的なアプローチに共鳴する。2001年の「Riot! Riot! Riot!」で示されたストリートとテーラリングの融合、2003年の「Consumed」のグラフィックカルチャー、2005年の「History of My World」の哲学的なメッセージ性など、コレクションごとのテーマを深く理解し、それを自分のファッションに落とし込む。彼らはただ「ラフの服を着る」のではなく、ラフの服が象徴するカルチャーや時代背景を身にまとうことに意味を見出す。現在、ラフは、ミウッチャ・プラダとタッグを組みプラダの共同クリエイティブディレクターを務めているため、ラフの熱狂的な支持者のうちの少ない人々はプラダをフォローし購入しているが、現在プラダが流行っているから着ているというような層とは根本的な価値観が異なると言えるだろう。このように、デザイナー信奉型の人々は、服を単なる「着るもの」ではなく、「思想を纏うもの」として捉え、デザイナーの一貫した美意識に共鳴する。そのためブランドネームではなく、特定のデザイナーを追い続ける傾向がある。
ハイブランド服を偏愛する典型的なタイプ3ファッション投資型──アーカイブ価値を重視するコレクター気質の人々
このタイプは、ハイブランドの服を単なる衣服ではなく、長期的な資産価値を持つアーカイブピースとして捉える。彼らは、デザイナー信奉型のように特定の人物の思想を追うのではなく、「どの時代の、どのアイテムが市場で価値を持ち続けるか」を見極めながら服を選ぶ。たとえば、ラフ・シモンズの2001年「Riot! Riot! Riot!」や、ヘルムート・ラングの1998年のアーカイブアイテムは、現在のリセール市場で高額取引されている。これらのアイテムをコレクションする層は、単に「ラフが好き」「ヘルムート・ラングが好き」という理由ではなく、「この時代の、このデザインが後に伝説的な価値を持つ」と見越して所有する。また、ヨウジヤマモトの1980年代のウールギャバジンコートや、アンダーカバーの2003年「Notwithstanding Beautiful」コレクションのレザージャケットなど、過去の名作をオークションやリセール市場で探し求める。彼らは、流行に左右されることなく、「価値が落ちない服」「今後市場でプレミアがつく可能性が高い服」を選ぶ。この層のスタイルは、一見シンプルで洗練されているが、実は一点一点が歴史的に価値のあるアイテムで構成されていることが多い。白シャツとジーンズを組み合わせた何気ないシンプルな着こなしに見えて、実はマルタン・マルジェラのアーティザナルラインの再構築シャツやデストロイニットに、ヘルムート・ラングの90年代後半のオリジナルデニムを合わせたこだわりの着こなしだったりする。彼らにとって、服は「着るもの」という以上に「所有することで価値を持つもの」であり、その審美眼によってハイブランドのアーカイブ市場を支えている。